弥生3月、年度末のこの時期は進学・就職などで地元を離れる人が多い時期です。
山口県からも大勢の若者が新天地へと歩を進めて行かれることでしょう。
地元での思い出の数々が、新生活の中で心の支えとなる日もあると思います。
ふるさと山口はいつも皆さんにエールを送っています。
さて、春に山口県から飛び立っていくのは、人ばかりではありません。
3月下旬頃から、周南市八代ではナベヅルの北帰行が始まります。
ナベヅルは漢字では「鍋鶴」と書くように、鍋の底のようなすすけた灰色をしているツル科の渡り鳥で、国の天然記念物に指定されています。
本州では唯一山口県周南市の八代(やしろ)に飛来してくることから、昭和39年に山口県のシンボルとして県鳥に選定されました。
10月中旬頃、寒さの厳しいシベリアから越冬のためにやってきて、3月下旬にシベリアの空に向けて飛び立ちます。
日本とシベリアの距離は約2,000kmもあります。途中で命を落とすナベヅルも多く、過酷な旅を乗り越えて飛来し、そしてまた旅立っていくのです。
周南市八代は、江戸時代にはすでにナベヅルとのかかわりがあり、明治時代には捕獲を禁止し、歴史的に日本でいち早く野鳥保護を行った地域です。
八代の人々は、戦時中の食料不足の時であってもナベヅルに給餌を続け、保護に尽力してきました。
周南市八代地区には、この地で命を落としたナベヅルを埋葬したツル塚や、ナベヅルの様子を観察できる野鶴監視所もあります。
環境の変化から渡来数は減少傾向ですが、今年も無事に越冬を終えて、もうじき飛び立っていくナベヅルたち。
旅立ちの時、ナベヅルは一斉に飛び立ちます。列を組んで旋回しながら、遠いシベリアの空に向かって羽ばたいていきます。
この春旅立つ皆さんも、これから新たな人生の旅が始まります。
美しい羽根を広げて大空へ羽ばたこうとする皆さんの前途に、幸多きことをお祈りしています。